コロナ禍で揺れた2020年。当館は3月31日から2ヶ月ほど臨時休館し、6月の再開後は、ほぼすべての展覧会計画を中止か延期にするための対応に追われながら、「作品のない展示室」(7月4日〜8月27日)という企画を行いました。最終日の閉館後には、クロージング・プロジェクトとしてパフォーマンス「明日の美術館をひらくために」も非公開で実施。このたび、そうした一連の動きをささやかな記録冊子にまとめました。当館ミュージアムショップで販売しています(税込600円)。
パフォーマンスのリハーサルより
「作品のない展示室」の企画趣旨にもあるとおり、当館は建築家・内井昭蔵による3つのコンセプトのもとに建てられ、また活動を展開しています。「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」。日々の暮らしの延長線上にあるテーマを大切にし、館内―展示室を含めて―にいても大きな窓から砧公園の自然を眺めることができ、また美術に限らず、音楽やダンスなど様々な芸術ジャンルに開かれたプログラムも行っている美術館。そのような当館の本来的な姿を、窓を開放した空っぽの展示室として見せ、過去の企画展やパフォーマンス・プログラムはアーカイヴ展示として加え、さらに実際にパフォーマンスを行うというかたちで、再確認したのでした。
「作品のない展示室」(撮影:堀哲平)
特集展示「建築と自然とパフォーマンス」(撮影:堀哲平)
パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」(撮影:…
幸いにも「作品のない展示室」はたくさんの来場者を迎え、数多くの取材も受け、SNS 上ではこれまでにないほど話題になりました。しかし考えてみると、当館側ではチラシもポスターも何もつくっておらず、このままでは当事者の視点からの記録が残りません。パフォーマンス「
明日の美術館をひらくために」に関しては、すでに公式Instagram (
setabi.performance)やYouTubeチャンネル上で、記録写真や映像を公開していました。しかし、「作品のない展示室」と「明日の美術館をひらくために」を一体のものとして理解できるような印刷物も、やはりつくっておくべきでは、という考えから、記録冊子の制作が始まりました。
印刷所にて。インクの乗り具合を確かめる。(撮影:武田…
刷り上がったばかりの紙。(撮影:武田厚志)
私たちはまだコロナ禍の只中におり、この夏の出来事を客観的に分析することができません。そのため、冊子もごくシンプルなつくりです。「作品のない展示室」と「明日の美術館をひらくために」について、ホームページにいつどのようなメッセージを公開したのかを示し、また展示室に掲げた内井昭蔵の言葉をいくつか紹介して、2020年2月から10月までの当館の状況を簡潔に報告する「コロナ禍と世田谷美術館、そして「明日の美術館をひらくために」」を、巻末に掲載しています。
こうしたテキストをはさみながら、写真家・堀哲平が8月に3週間ほどかけて撮影した当館の内外の風景、そして鈴木ユキオの振付・構成によるパフォーマンスのリハーサルや本番の様子が、20ページにわたって展開します。
「片観音開き」のページもあり、めくるのが楽しい
いわゆる建築写真でもなく、また通常のダンスの記録写真とも異なる、不思議な温かさと距離感で撮られた一群の写真。この美術館で人はどのような佇まいを見せ、どのように時を過ごすのかを、鮮やかにとらえています。冊子デザインは武田厚志(SOUVENIR DESIGN)。「作品のない展示室」を自ら訪れて得た感覚を、静かな美しさに結晶させています。
「明日の美術館をひらくために」、まだまだ続く困難を乗り越えるべく制作された記録冊子を、お手にとっていただければ幸いです。