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刊行物

『橋本平八と北園克衛展 図録』

[カタログ/2010年発行]

-開催概要から-

彫刻家と詩人、異色の芸術家兄弟。純粋な表現の探究の軌跡

橋本平八(1897-1935)と北園克衛(本名:橋本健吉、1902-1978)は実の兄弟で、現在の三重県伊勢市に生まれました。兄の橋本平八は、大正期から昭和前期に再興日本美術院彫刻部に属して彫刻家として活動します。そして、38歳の若さで早逝しました。一方、弟の北園克衛は、日本の前衛詩を代表する詩人の一人として、また書籍装幀やイラスト、詩誌の編集等で国際的にも知られた存在でした。

橋本平八は日本の古仏と仏教思想などを研究して宗教的な主題の木彫を多数制作しました。また、橋本は西洋の思想や哲学にも関心を寄せ、さらに江戸時代の円空仏から強い啓示を受けて、独自の彫刻思想を確立します。生命の神秘に迫った《猫》、自然界の造型作用を視覚化した《石に就て》など橋本の彫刻は現代でも注目され、彼の思想の解明と歴史的な位置づけが待たれています。

北園克衛は、大正から昭和の初めにかけての新興芸術運動に参加し、詩人として活動を開始しました。シュルレアリスムの影響を受けたのち、言葉をオブジェのように扱う独自の詩作を展開し、1935年に結成したVOUクラブと、機関誌『VOU』を拠点に、亡くなるまで詩を発表します。海外の詩人とも交流し、写真による詩〈プラスティック・ポエム〉は世界各国で高く評価されました。

兄・橋本平八の伝統的性格を帯びた木彫と、弟・北園克衛の先鋭的な詩作やデザインは、対照的に見えます。しかし、北園が「私に芸術を吹きこんだのはこの兄であった」と記したように、二人の芸術世界は互いの交流を通じて形成されたと考えられます。橋本平八については、近年の調査によって未公刊の手記や書簡、絵画作品等が発見され、そうした調査研究の成果を活かした新たな作家像の提示が課題となっています。また、北園克衛については、在米の北園研究家が長年にわたって収集した膨大な資料の調査と紹介が今回許可され、こうした資料を活用した北園克衛の全体像紹介が可能になりました。

こうした背景のもとに開催する本展覧会は、近年の調査研究成果を活かしつつ、橋本平八と北園克衛の全体像を紹介して、二人の活動の意義を検証すること、あわせて兄弟間の様々な交流が各人の芸術世界形成にどのように作用したかを考察することを大きな目的としています。

目次〔橋本平八〕

「橋本平八再考」酒井忠康

「橋本平八―作品と思想」毛利伊知郎

橋本平八・図版

彫刻

絵画、構想図

関連資料―円空関係資料/日記と写生帖/遺著

「兄と弟」毛利伊知郎

橋本平八・略年譜

橋本平八・文献目録

橋本平八・出品作品目録



目次〔北園克衛〕

「北園克衛と橋本平八の値しない不透明さ」ジョン・ソルト〔テキスト・英語原文あり〕、田口哲也訳

「北園克衛―詩的純粋の追求」野田尚稔



北園克衛・図版

第1章:橋本健吉から北園克衛へ

朝熊から東京へ/新興芸術運動―『ゲエ・ゲムギガム・プルルル・ギムゲム』の頃/新興芸術運動―『薔薇・魔術・学説』/新興芸術運動―『衣装の太陽』とシュルレアリスム/拡がる表現領域―編輯者:北園克衛/拡がる表現領域―画家:北園克衛/アルクイユのクラブ/著作:1929-1944/第2次世界大戦のさなか/肖像:1940



第2章:『VOU』:1935-1942

『VOU』1号-30号/『新技術』(『VOU』改称)31号-37号



第3章:海外の詩人との交流

エズラ・パウンド/アメリカ、イギリスの詩誌/献呈本



第4章:戦後の活動

戦後の詩誌/著作:1951-1980/前衛詩人協会/絵画作品/肖像:1958



第5章:『VOU』:1946-1978

『VOU』35[31]号-160号/VOU形象展/VOUクラブの活動



第6章:プラスティック・ポエム

写真―〈VOU形象展〉出品作品/プラスティック・ポエム―「新しい詩の試み」展出品作品/『moonlight night in a bag』1966年/『Study of man by man』1979年/プラスティック・ポエム―『VOU』掲載作品/プラスティック・ポエム―ネガファイルから/コンクリート・ポエトリー、ヴィジュアル・ポエトリーの運動のなかで



第7章:デザイン・ワーク

『机』/早川書房/装幀本/〈スクラップブック〉から

北園克衛・略年譜

北園克衛・文献目録

北園克衛・出品作品目録



奥付〔橋本平八・北園克衛共通〕

編集:毛利伊知郎、原舞子(三重県立美術館)、野田尚稔、嶋田紗千(世田谷美術館)

校閲:岩田高明

デザイン:梯耕治

印刷:野崎印刷紙業株式会社

発行:財団法人三重県立美術館協力会、世田谷美術館、©2010