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第32回マルセイユ国際映画祭で三冠受賞するなど、世界的に注目されている長編映画『春原さんのうた』。当館も撮影の舞台となった話題作が、いよいよ2022年1月から、東京をはじめ、北は北海道から南は沖縄まで、全国の映画館で公開されます。『春原さんのうた』公式サイト映画『春原さんのうた』予告編脚本と監督を務めた杉田協士さんは当館とのかかわりが深く、三冠受賞などについては、すでにブログでもご紹介したとおりです。その後も世界各地の映画祭に選出されたこの作品をひとりでも多くの方にご覧いただこうと、当館のミュージアムショップでも前売り鑑賞券を発売中です(2022年1月下旬まで)。特典として、映画のシーンにインスパイアされたイラストをあしらった、オリジナルポストカード3枚がついてきます。作品の世界観にやさしく寄り添う絵は、イラストレーターのカシワイさんによる描きおろしです。『春原さんのうた』前売り鑑賞券の特典、オリジナルポス…せっかくですので、映画ポスターを貼ってチラシも設置して、と工夫をこらす店長。ミュージアムショップの一角に「春原さんコーナー」が出現写真の左下に写っているのは、映画にちらりと登場するパフォーマンス「明日の美術館をひらくために」の記録冊子。小さいけれど、当館のことがよくわかる写真集です。映画のささやかな謎解きにもなるかも? 前売り鑑賞券とあわせてお求めいただくと楽しいアイテムです。みなさまのご来店をお待ちしております。「明日の美術館をひらくために」記録映像(撮影=杉田協士、飯岡幸子)※当館で実現した国際コラボの能公演を映像作品化した「夢の解剖――猩々乱」(プロデューサー=杉田協士、ディレクター=大川景子、撮影=飯岡幸子ほか)は、2022年3月31日まで有料配信中です。
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当館の映画ワークショップで長らくお世話になっている映画監督、杉田協士さん。コロナ禍に翻弄されながら彼がつくりあげた新作長編『春原さんのうた』が、2021年の第32回マルセイユ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に正式出品されたことは先日のブログで書きましたが、なんとその作品が、グランプリ、俳優賞(主演=荒木知佳さん)、そして観客賞の三冠を受賞! 「ぽかーんとしています」と受賞直後にツイートしていた杉田さんでしたが、何度お祝いの言葉を書いても足りません。本当に、おめでとうございます! グランプリ、俳優賞、観客賞を受賞した『春原さんのうた…さて、美術の世界の〇〇ビエンナーレといった「芸術祭」同様、国内外に「映画祭」はたくさんあります。ビエンナーレには、巨額の投資マネーが動くようなものから地域振興に資する小ぶりなものまでとバラエティがあり、映画祭にもそれぞれ特徴があることでしょう。では、マルセイユ国際映画祭(FID)は何が持ち味なのでしょうか。FID公式サイトより。画面左側に『春原さんのうた』グ…それを知るのに最適な記事が、8月1日に出ました。映画を中心とするカルチャー批評誌『NOBODY』オンライン版に掲載された、カンヌ国際映画祭批評家週間短編選考委員、ヴェネチア国際映画祭ヴェニスデイズ部門コンサルタントの槻舘南菜子さんによる「第32回マルセイユ国際映画祭FID――カンヌからマルセイユへ――」(https://www.nobodymag.com/journal/archives/2021/0801_2249.php)。パリ在住の槻舘さんは、今回はカンヌからマルセイユに直行して、現地で杉田さんのサポートもされていた方です。その槻舘さんいわく、FIDとは「開かれた砦」。まず、「カンヌとは真逆の先鋭性と仏映画産業に媚びない強い芸術的志向」をもち、新しい才能の「「発見」という映画祭本来の役割を軸に据え、ワールドプレミアへの強いこだわりを掲げる稀有な映画祭」であるとのこと。なるほど、商業主義の奔流に押し流されてしまわないように映画という表現を見守る「砦」ですね。しかもおもしろいのは、FIDは「映画作家を孤高の芸術に閉じ込めるわけではなく、新たな才能をカンヌ国際映画祭などの大規模な映画祭に送り出してもいる」ということ。例えば現代美術の文脈でもよく知られているタイの映像作家、アピチャートポン・ウィーラセータクン(「アピチャッポン・ウィーラセタクン」という表記になじみがある方も多いと思いますが、上記が原語の発音により近いそうです)が、その好例。『ブンミおじさんの森』が2010年のカンヌで最高賞パルムドール賞を受賞していますが、FIDはすでに2000年に彼を見出していた、つまりアピチャートポンは「FID的な先鋭性を出発点とし、国際的なキャリアを積みあげた作家」なのです。今回のFIDでは、アピチャートポンは名誉賞を受賞したほか特集上映も組まれており、杉田さんも彼との出会いに感激したようです。杉田さんとアピチャートポン・ウィーラセータクン。マル…さて、「ジャンルの垣根を越えた、フィクション、ドキュメンタリー、実験映画など幅広いセレクション」もFIDの特徴であり、今回のインターナショナル・コンペティション部門の出品作も文字通り多様であったようです。他にどんな作品があり、杉田さんの『春原さんのうた』はそのなかでどのように受け止められたのか。詳しくはぜひ槻舘さんのレポートをお読みいただきたいですが、ここでは杉田さん自身の言葉をご紹介します。帰国翌日、お電話でお話ししたときにいただいた、どれも印象的なコメントです。「マルセイユに行って、世界では本当にいろいろな映画がつくられている、と改めて知りました。この映画は一体どう見たらいいのだろう、と考えることから始まる作品ばかりでした。言ってみれば、それぞれの映画がその映画だけのオリジナルのジャンルを持っているんです。映画を生んだ国であるフランスだからこそ、そのような映画祭を支える土壌ができているのかとも思いました。」「私自身、これまで何度もあなたの映画はわかりにくいという言葉を向けられてきましたが、気にせずに自分がこれでいいと思うやり方をつづけてきました。そうするにはそれなりに持続的な力を自分の体や心に入れつづける必要があるんです。“普通のもの”を求める力は、それこそ砂浜を打つ波のように繰り返し押し寄せてくるので。でもマルセイユに来たら、あれ? この映画はいったい何? という作品ばかりに出会って、いい意味で力が抜けました。」「10時間以上の長さの映画を作って発表してしまうようなラヴ・ディアス監督が、審査員長としてグランプリを渡してくれたこともうれしかったです。また、観客賞もいただけたのは、今回のコンペ作品の中にあっては比較的見やすかったからかもしれません。いやいや、自分の作品が見やすい? そんなことある? と思えたのもおかしくて、ありがたい場所でした。岩場をずっと登っていたら見晴らしのいい場所に立ってた、みたいな気持ちでいます。ということは、まだまだ先の世界があるということでもあります」授賞式後、インターナショナル・コンペティション部門審…「普通のもの」を求める波に抗い、「いったい何?」と思わせるような作品を生み出す才能を発見するのは、歴史の厚みに裏打ちされた優れたプロの仕事。と同時に、それを育てるのは、自分の目でしっかり作品を観る数多くの観客なのだと、あらためて痛感します。いうまでもなく、美術の世界でも全く同じです。そしてもうひとつ、表現のジャンルを超えて共通する大切なことがあります。それは、どんな仲間とともに歩いていけるかということ。「もちろん、私だけでここまで来られたのではないです。私の長編1作目からずっと一緒に作ってくれていて、世田谷美術館でも同じ講座を担当してきた撮影の飯岡幸子さんや編集の大川景子さん、あと同じく講師で、いつも杉田はそれでいいのだと励ましてくれる脚本家の保坂大輔さんや和田清人さんの存在が大きいです。そばにいて高め合える人、大事なんです。私が直接耳にしたことではないのですが、飯岡さんは初めて私の撮影現場に参加する人に、「これでお客さんに伝わるのかと思うでしょ?でも不思議と伝わるんだよね。だから杉田君を信じることにしてる」と言ってたそうです。ありがたいです。」『春原さんのうた』は、国内では2022年新春からポレポレ東中野などで公開予定。その前に、この作品はFIDという「砦」を出て、世界各地の映画祭で続々と新たな観客を得るかもしれません。ますます先行きが楽しみです。もういちど、杉田さん、おめでとう!
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『ひかりの歌』など、その静謐で詩的な映像世界のファンが多い映画監督、杉田協士さん。当館では、2005年度より年間講座「美術大学」の映画ワークショップの講師としてご活躍いただき、また身体表現のワークショップシリーズ「誰もいない美術館で」や、館内のパフォーマンスの記録映像などもたびたび撮っていただいています。映画監督の杉田協士さん 写真:鈴木理絵その杉田監督の長編第3作『春原さんのうた』が、第32回マルセイユ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に正式出品されます。忘れ得ぬパートナーの姿を胸に秘めながら、美術館の学芸員をやめてカフェで働く女性が主人公の本作は、選考委員全員一致によって出品が決定。映画祭総合ディレクターのジャン=ピエール・レムさんからは、「誰もが心を動かされ、言葉をなくし、涙し、映画が終えたときには限りない幸せに包まれていました」、「それはこの映画が持つ繊細さと精密さ、他に類のない見せ方がもたらした小さな奇跡です」と最大級の賛辞が寄せられているとのこと。杉田さん、本当におめでとうございます!『春原さんのうた』海外版ポスターの別バージョン ©︎…『春原さんのうた』より 写真:杉田協士『春原さんのうた』撮影現場の杉田さん 写真:鈴木理絵実はこの作品、さまざまなめぐりあわせから、当館も協力させていただくことになったものです。2020年、当館の「美術大学」を舞台に作品を撮る構想を温めていた杉田監督ですが、コロナ禍により講座が中止。撮影も叶わなくなり、監督は全く新しい発想で脚本を書き直すことに。他方、予定していた展覧会すら開催できなくなった当館では、やむなく「作品のない展示室」というプロジェクトを実施。最終日、ダンサー・振付家の鈴木ユキオさんをはじめ、当館ゆかりのアーティストが数多く参集し、無観客ではありましたが、展示室でのパフォーマンス「明日の美術館をひらくために」を実現させました。その記録映像の撮影を、杉田監督にお願いしてあったのです(同映像は世田谷美術館公式YouTubeで公開中です)。世田谷美術館でのパフォーマンス「明日の美術館をひらく…『春原さんのうた』のなかには、この「明日の美術館をひらくために」が少しだけ登場します。夢とうつつを行き来するようなその時間は、フィクションとドキュメンタリーのあわいにたゆたうような杉田監督の作品にあって、ひっそりと不思議な位置を占めているかもしれません。『春原さんのうた』は、2022年新春よりポレポレ東中野などの劇場で公開予定。待ち遠しい限りですが、その前に、マルセイユの観客が「小さな奇跡」としての『春原さんのうた』をどのように受けとめるのか、現地からの報告を楽しみにしたいと思います。・『春原さんのうた』映画祭用予告編→『春原さんのうた』映画祭用予告編をYoutubeで見るセタビPodcasting Vol.63-64(杉田協士氏「作品のない展示室」クロージング・プロジェクト パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」に関連した音声コンテンツ【前編】【後編】)杉田協士 プロフィール1977年、東京生まれ。映画監督。2011年に⻑編映画『ひとつの歌』が東京国際映画祭に出品され、2012年に劇場デビュー。⻑編第2作『ひかりの歌』が 2017年の東京国際映画祭、2018年の全州国際映画祭に出品され、2019年に劇場公開。各主要紙や映画誌「キネマ旬報」において高評価を得たことなどで口コミも広まり、全国各地での劇場公開を果たす。他、小説『河の恋人』『ひとつの歌』を発表(文芸誌「すばる」に掲載)、歌 人の枡野浩一による第4歌集『歌 ロングロングショートソングロング』(雷鳥社)に写真家として参加するなど、幅広く活動をつづける。映画製作と並行して各地の小中高大学、特別支援学校、児童養護施設、美術館などで映画ワークショップも実施。世田谷美術館では年間講座「美術大学」にて10年以上にわたり講師を務めてきたほか、身体表現のワークショップやパフォーマンスの記録映像も多数撮影。
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コロナ禍で揺れた2020年。当館は3月31日から2ヶ月ほど臨時休館し、6月の再開後は、ほぼすべての展覧会計画を中止か延期にするための対応に追われながら、「作品のない展示室」(7月4日〜8月27日)という企画を行いました。最終日の閉館後には、クロージング・プロジェクトとしてパフォーマンス「明日の美術館をひらくために」も非公開で実施。このたび、そうした一連の動きをささやかな記録冊子にまとめました。当館ミュージアムショップで販売しています(税込600円)。パフォーマンスのリハーサルより「作品のない展示室」の企画趣旨にもあるとおり、当館は建築家・内井昭蔵による3つのコンセプトのもとに建てられ、また活動を展開しています。「生活空間としての美術館」、「オープンシステムとしての美術館」、「公園美術館としての美術館」。日々の暮らしの延長線上にあるテーマを大切にし、館内―展示室を含めて―にいても大きな窓から砧公園の自然を眺めることができ、また美術に限らず、音楽やダンスなど様々な芸術ジャンルに開かれたプログラムも行っている美術館。そのような当館の本来的な姿を、窓を開放した空っぽの展示室として見せ、過去の企画展やパフォーマンス・プログラムはアーカイヴ展示として加え、さらに実際にパフォーマンスを行うというかたちで、再確認したのでした。「作品のない展示室」(撮影:堀哲平)特集展示「建築と自然とパフォーマンス」(撮影:堀哲平)パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」(撮影:…幸いにも「作品のない展示室」はたくさんの来場者を迎え、数多くの取材も受け、SNS 上ではこれまでにないほど話題になりました。しかし考えてみると、当館側ではチラシもポスターも何もつくっておらず、このままでは当事者の視点からの記録が残りません。パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」に関しては、すでに公式Instagram (setabi.performance)やYouTubeチャンネル上で、記録写真や映像を公開していました。しかし、「作品のない展示室」と「明日の美術館をひらくために」を一体のものとして理解できるような印刷物も、やはりつくっておくべきでは、という考えから、記録冊子の制作が始まりました。印刷所にて。インクの乗り具合を確かめる。(撮影:武田…刷り上がったばかりの紙。(撮影:武田厚志)私たちはまだコロナ禍の只中におり、この夏の出来事を客観的に分析することができません。そのため、冊子もごくシンプルなつくりです。「作品のない展示室」と「明日の美術館をひらくために」について、ホームページにいつどのようなメッセージを公開したのかを示し、また展示室に掲げた内井昭蔵の言葉をいくつか紹介して、2020年2月から10月までの当館の状況を簡潔に報告する「コロナ禍と世田谷美術館、そして「明日の美術館をひらくために」」を、巻末に掲載しています。こうしたテキストをはさみながら、写真家・堀哲平が8月に3週間ほどかけて撮影した当館の内外の風景、そして鈴木ユキオの振付・構成によるパフォーマンスのリハーサルや本番の様子が、20ページにわたって展開します。「片観音開き」のページもあり、めくるのが楽しいいわゆる建築写真でもなく、また通常のダンスの記録写真とも異なる、不思議な温かさと距離感で撮られた一群の写真。この美術館で人はどのような佇まいを見せ、どのように時を過ごすのかを、鮮やかにとらえています。冊子デザインは武田厚志(SOUVENIR DESIGN)。「作品のない展示室」を自ら訪れて得た感覚を、静かな美しさに結晶させています。「明日の美術館をひらくために」、まだまだ続く困難を乗り越えるべく制作された記録冊子を、お手にとっていただければ幸いです。
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ゲスト:杉田協士(映画監督)ナビゲーター:塚田美紀(本プロジェクト企画担当学芸員)世田谷美術館で2020年7月4日から8月27日まで開催した、「作品のない展示室」。最終日の閉館後に、非公開のクロージング・プロジェクトとして、パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」を行いました。映画監督の杉田協士氏には、このプロジェクトの記録映像を撮影していただき、10月17日からYouTubeで公開しています。今回のポッドキャスティングでは、2回にわけて、杉田さんにじっくりお話を伺いました。前編では、杉田氏がふだん、どのような考え方で映画をつくっているのか、また、現在の活動の原点ともなった学生時代、演出家・劇作家の如月小春さんとの出会いについて、お話しいただきました。(約26分)後編では、「明日の美術館をひらくために」の撮影現場のようす、とくに映像の最初のシーンを撮ったときのことなどをお話いただきました。(約22分)※セタビPodcastingについて杉田協士(すぎた きょうし)氏プロフィール1977年、東京生まれ。映画監督。長編第1作『ひとつの歌』が2012年に、第2作『ひかりの歌』が2019年に劇場公開。映画製作と並行して各地の小中高大学、特別支援学校、児童養護施設、美術館などで映画ワークショップを行う。世田谷美術館では年間講座「美術大学」にて10年以上にわたり講師を務めるほか、身体表現のワークショップやパフォーマンスの記録映像も多数撮影。歌人の東直子の短歌を原作にした新作『春原さんのうた』が2021年春に完成予定。デジタルコンテンツ「セタビPodcasting」にもどる→こちら
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ゲスト:堀哲平(写真家)ナビゲーター:塚田美紀(本プロジェクト企画担当学芸員)世田谷美術館で、2020年7月4日から8月27日まで開催した「作品のない展示室」。最終日の閉館後に、非公開のクロージング・プロジェクトとして、パフォーマンス「明日の美術館をひらくために」を行いました。堀哲平氏には、プロジェクトのリハーサルから本番までの記録写真の撮影をお願いしました。今回のポッドキャスティングでは、当館との関わりから美術館のパフォーマンス・イベントを撮影する面白さ、そしてコロナ禍で行われたクロージング・プロジェクトの撮影で感じたことなどをお聞きしました。※セタビPodcastingについて堀哲平 プロフィール1981年島根県生まれ。2004年、早稲田大学第一文学部卒業。写真家・谷本裕志氏のアシスタント、株式会社ミディアムの専属フォトグラファーを経て、2010年フリーランスフォトグラファーとして活動を開始。ウェブサイトデジタルコンテンツ「セタビPodcasting」にもどる→こちら
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※本イベントはオンラインのみの公開です美術館と、そこに集う人々。そこに身を置き、作品を「鏡」として自身を見つめ、想像力を羽ばたかせたいと願う人々によってこそ命を吹き込まれるのが、美術館という場です。世田谷美術館の「作品のない展示室」には、「鏡」としての作品はありません。ただ窓はあり、その向こうに刻々と変化する光と緑があります。部屋の奥には、30数年分の展覧会やパフォーマンスの記録もあります。作品の不在、圧倒的な借景、過去の動きのイメージ群。それらによって、ここで人々が体験してきた空間と時間が、また美術のみならず音楽・ダンス・演劇など、いかに多様なジャンルのアーティストにこの館が支えられてきたかが、はからずも開示されることになりました。ほどなく、展示室には作品が戻ってきます。しかし作品の不在によって見えてきたこと、支えてくださる人々とのつながりを記憶しておくために、この空間/時間そのものを味わうことから生まれるパフォーマンスを、「作品のない展示室」の最終日に、創造します。これまで何度も当館の空間と対話しつつ踊ってきたダンサー、鈴木ユキオ(YUKIO SUZUKI projects代表)に、シンプルな動きの連続による振付・構成を委嘱し、過去のパフォーマンス・プログラムに関わったアーティストたちに参集を呼びかけ、館内スタッフも加わって、世田谷美術館の空間/時間をともに味わい、「明日の美術館をひらくために」、ともに表現するプロジェクトです。ただ、コロナ禍により、この創造の現場に、一般の来場者のみなさんをお迎えできません。残念でなりません。しかし、「空間/時間そのものを味わう動き」のいくつかは、どなたでも試せるよう、短い動画として事前に一般公開します。またパフォーマンスの記録写真・映像は、編集を経て、後日一般公開します。「明日の美術館をひらくために」、当館としては初めて試す方法で、このプロジェクトをみなさんと広く共有したいと願っています。※2020年12月に記録冊子『明日の美術館をひらくために―「作品のない展示室」をめぐる記録』を刊行・販売開始しました。English Site振付・構成・出演鈴木ユキオ出演者YUKIO SUZUKI projects(安次嶺菜緒、赤木はるか、山田暁、小谷葉月、栗朱音、阿部朱里)参加者当館のパフォーマンス・プログラム等に関わったアーティスト(ボヴェ太郎、柏木陽、尾引浩志、大熊ワタル、こぐれみわぞう、福田毅、三宅一樹、群馬直美、神村恵、上村なおか、CORVUS(鯨井謙太郒+定方まこと)、笠井久子、笠井禮示、浅見裕子、砂連尾理、杉本文、吉野さつき)、世田谷美術館学芸部・総務部・分館スタッフ企画・制作塚田美紀制作補助佐藤深雪、佐藤香織、久保友美記録写真堀 哲平記録映像杉田協士、飯岡幸子、黄永昌、髭野純、田巻源太振付の一部公開(YouTube: 世田谷美術館公式)2020年8月27日公開記録写真の公開(Instagram: setabi.performance)2020年8月18日公開記録映像の公開(YouTube:世田谷美術館公式)2020年10月17日公開「明日の美術館をひらくために」記録映像(約31分)本番撮影2020年8月27日(木)閉館後(非公開)撮影場所当館1階「作品のない展示室」ほか記録冊子の刊行・販売くわしくは こちら(セタビブログ)アーティストコメント:美術館という箱に、美術というモノが展示され、そのモノを糸口に、そこに集う人たちが、それぞれの頭の中に、いや頭という枠を飛び越えながら、想像し、思考はどんどん遠くへ飛んでいく。どこまで遠くに飛べるのか、あるいはどこまで遠くに飛ばせるのか。偶然居合わせたあの人の想像と、どこかで少しずつ繋がりながら、旅をする。そして、それと同時に、美術というモノに向かい合った自分自身を内省する時間でもある。美術館とはそういうところだと思う。静かに、自分と向き合う場所。静かに、自分を積んでいく場所。静かに、自分を作っていく場所。一つひとつの身体が、想像そのものになって、この空間に居合わせた人と重なり合って、そうして、何もないこの場所で、何かを作り出すことができれば、それこそが、ダンスにしかできないことだと思う。シンプルな動きが連なって、動きが時間になり、身体が風景になり、そこにいる全てのヒトやモノがダンスになり、作品になる「作品のない展示室」が作り出す、一夜限りの「展示室から生まれる作品」――鈴木ユキオアーティストプロフィール:鈴木ユキオ「YUKIO SUZUKI projects」代表/振付家・ダンサー。世界40都市を超える地域で活動を展開し、しなやかで繊細、かつ空間からはみだすような強靭な身体・ダンスは、多くの観客を魅了している。2008年に「トヨタ コレオグラフィーアワード」にて「次代を担う振付家賞」(グランプリ)を受賞。2012年フランス・パリ市立劇場「Danse Élargie 」では10組のファイナリストに選ばれた。世田谷美術館では、「INSIDE/OUT 建築の時間・ダンスの瞬間」(2009年)、トランス/エントランスvol.15「イン・ビジブル in・vísible」(2017年)、「風が吹くかぎりずっと――ブルーノ・ムナーリのために[Tanto quanto dura il soffio: per Bruno Munari]」(2018年)に出演している。ウェブサイトデジタルコンテンツ「イベントレポート」にもどる→こちら